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はじめての韓国コスメ(後半)韓国コスメはなぜ成長できたのか?

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ここでは前半に続いて、韓国コスメがなぜ急成長を遂げることができたのかを三井物産戦略研究所 酒井三千代氏による「⽇韓化粧品産業の⽐較からの考察」レポートをベースにご紹介してきます。

韓国化粧品産業の成長の背景

新興企業の躍進も目立つ韓国化粧品産業が成長してきた背景として、いくかのポイントをあげることができます。

ここでは、国の政策的サポート、K POP、韓流ドラマなどのソフトパワー、強力なODM/OEMの存在、ECの利用増と関連企業の成長、個人・インフルエンサーの影響力の5点について説明していきたいと思います。

1. 政策的サポート

韓国では、これまで産業振興のための多様な支援策が講じられてきました。2013年の「化粧品産業中長期発展計画」や2017年の「化粧品産業総合発展戦略」等に基づき、政府は輸出支援に当たる専門家の育成、各市場の特性調査、輸出手続きの簡素化などを通し、中小企業も含めた企業の輸出を支援してきています。

また、韓国の伝統処方を生かした韓方化粧品や高機能素材の開発に際し、研究開発費の一部を補助するなど、韓国ブランドの強みを創出するための支援を行っています。

2. K POP、韓流ドラマなどのソフトパワー

韓国の化粧品産業の国外でのプレゼンス向上には、同国が国を挙げて促進してきた「韓流マーケティング」の効果も影響しています。

同マーケティングについて、サムスン経済研究所は、4つの段階・プロセスで説明しています。第1段階では音楽やドラマに触れてスターを好きになる、第2段階ではDVD等関連製品を購入する、第3段階では家電や生活用品などの韓国製品を選び始める、第4段階では韓国そのもののファンになる、というプロセスです。

ドラマや音楽等の文化で魅力を伝えるという点で、米国や韓国は共通していますが、米国は国際政治での影響力を望む結果として位置付けてきた一方、韓国は輸出振興をターゲットとしており、モノやサービスを売るといった産業面でソフトパワーを活用しているといえます。KPOPアイドルをイメージキャラクターに起用する韓国コスメブランドが多いのもこうした韓流マーケティングが結実したものといえます。

日本製は高性能で信頼できるが、人気がある、オシャレな、という評価を得られていない(図表9)現状としても、韓国のソフトパワーが韓国コスメ人気の一端を担っていることがわかります。

3. 強力なOEM/ODMの存在

コスマックスや韓国コルマーに代表されるOEM(Original Equipment Manufacturing )

/ODM(Original Design Manufacturing)企業が、技術力を磨き、生産力を拡大したことで、製造能力はないがアイデアやコンセプトを有する新興ブランドの事業展開が可能になりました。

売上高の伸びは、アモーレパシフィック、LG生活健康の化粧品メーカー2強の伸びを大きく上回っており(図表5)、2019年の2社の売上高の合計は、メーカー2強の売上高の合計の4分の1程度となっています。

OEMの売り上げは最終製品価格(小売り価格)の4分の1程度であることから、仮に最終製品ベースに換算すると、ODM/OEM2強が、メーカー2強の生産規模に迫る規模で存在感を示していることが分かります。

こうしたODM/OEMの成長で、短いサイクルで消費者ニーズに即した製品を企画・製造する仕組みが洗練されていき、手頃な価格帯の多様なブランドが生まれています。またそうした新興ブランドは、立ち上げの段階で国外市場を見据える企業が多く、韓国の輸出拡大に寄与しています。

韓国の化粧品産業は、クッションファンデーションやCCクリーム6など、これまでにないコンセプトを用いた商品で世界的に注目を集めてきていますが、そうした商品の普及にも、ODM/OEMの開発力と製造力が大きく貢献しているのです。

4. ECの利用増と関連企業の成長

韓国は先進国の中でも早い段階でインターネットやSNSの普及が進みましたが、化粧品の購入に際しても、ECの利用が進んでいます。スキンケア用品のEC比率は2020年には3割を超え、実店舗全体の販売比率に並ぶ水準となっている。世界的に見ても、韓国の化粧品のEC比率は世界最大の中国に次ぐ水準となっており、ECを販路として活用することで、新興ブランドの成長が促進されている状況です。

このように国内の消費市場のデジタル化が進んでいることで、それに適応した企業やクロスボーダーでデジタルマーケティングを支援する企業が成長しています。国内だけでなく、海外の顧客を対象とするECサイトを運営する企業や、国内の化粧品メーカーと海外のリテーラーをつなぎ輸出を支援する、企業向けECを展開する事業者の活躍も見られます(図表7)。各国に存在する総合ECを通した販売だけでなく、韓国系経営者による韓国美容・ライフスタイルに特化したECサイトも複数の国で生まれており、中小ブランドも含めた韓国の化粧品産業の輸出促進に寄与しています。

5. 個人・インフルエンサーのサポート

こうした動きに加えて、多くの国でSNS等を通して韓国のスキンケア習慣やファッションなどを幅広く発信する個人のインフルエンサーが登場していることも韓国の化粧品産業の成長に貢献しています。

K-POPやK-Dramaの影響で韓国のファンが地域的に厚みを増していることが、韓国をサポートするインフルエンサーの影響力を強める形になっています。

韓国国際交流財団によると、世界のHallyu(韓流)関連のファンクラブ会員総数は、2020年に1億人を越え、北米でも前年比30%増の約1,600万人となり、化粧品については、K-Beautyと称され、とりわけアジアでの人気が高いのが現状で、人口の多いインドやロシアでも一定の人気を集めていることがわかります。(図表8)

図表8:自国におけるKビューティはどれくらい人気がありますか?の問いに対して、大変人気がある<very popular>と回答した人の割合

以上が三井物産戦略研究所の発行したレポートを要約した韓国化粧品業界の外観と成長要因でした。

このように国家戦略によって整えられた成長基盤の上でスタートアップ、新興企業がECなどのテクノロジーと韓国のソフトパワーを活用し、グローバルの戦いを挑んでいる状況を見るに今後もさらに成長を続けていくように思われます。

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KANKOS
KANKOS
ライター
韓国出身。現地のコスメ業界の最新トレンドやイノベーションについての情報発信をしています。10年間、アジア全域の美容市場に焦点を当て、リテール業界の専門家やブランドマネージャーたちに向けて、市場の動向、消費者行動、製品開発の情報を提供してきました。
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